「痔瘻物語」
Anal fistula かく語りき
実は今日は痔瘻の手術だった。(もう昨日になった。)
足が寒いなと思いつつ、ずっと椅子に座って編集したりHP制作したり何やかんやしていたある日、お尻に嫌な予感が走った。そう、暫く前から毎日パンツに微量の白い何かが付着するようになったが気にせずに過ごしていた。
しかしやはり作業の集中力が落ちるし嫌な予感がしたので病院に行くことにした。
診察台に横になりお医者さんに診てもらい、痔瘻だから手術しますと言われトントン拍子で話が進んだ。が、私は痔瘻というものをその時までちゃんと知らなかったので説明を聞いてクラっとした。いつかスタンディングデスクが欲しいなと夢想していたが時既に遅し。光陰矢の如し。
その後血管年齢を測定したら言うのも憚れる恐るべき結果が出て更にクラックラっと喰らった数字に絶句した。
(血管年齢若返り作戦開始。)
その日は「痔瘻は地獄」「出産の痛みに〜」など調べては出てくる言葉にしっかりショックを受けて落ち込んだ。
湯船から上がればヒートショックでシャワーに鼻血がダラダラと混じった。
しかもなかなか止まらない。
夏目漱石も痔瘻だったと出てきた。タイムマシンに乗って、痔瘻予防にはスタンディングデスクなる机があること、ストレスがいかに身体によくないかについて話し、来たるべき痔瘻について説得し尽くしてしまった日には漱石はもはや皆の知る漱石先生ではなくなってしまうだろう。
痔瘻系YouTuberにでもなるか!と投げ遣りな自虐の詩を唱えつつ、そんな力はないので諦め、スタンディングデスクは買わずとも、そもそも椅子に座ることをやめた。殆どの作業を立って行うようになった。食事も調理したらその場で立ったままするようになった。(別にお尻が痛いわけではなく最善策を取り)
自己分析の結果、飽和脂肪酸の多い食事を控えるなど色々修正しつつ手術当日になった。
遠足気分で家を出て、駐車場に車を停めて、そのまま車内で抗原検査を受け陰性。
病院に入って軽い診察と、レントゲン、心電図の検査等を受ける。
心電図のセッティングをしながら看護師さんが「副医院長がやさしくてイケメンで〜」と話しかけてくれるが、いい病院だなぁ。
病室へ案内される。
浣腸やら点滴、注射など看護師さんにしてもらう。
時間になり手術台にうつ伏せになる。麻酔が効くのにちょっと時間がかかるということで頭が冷えないようにニットキャップをかぶる。
頭隠して尻隠さず、の体現者ここに現る。
仙骨麻酔という方法で注射。その瞬間自分の中のナウシカがホログラムになって出現し
「大丈夫、痛くない。」と言う。
実際のところ痛くなかった。
しばらくして麻酔が効いているか看護師さんに確認される。
「どう?痛い?」とか聞かれ、「お尻触られてる手の温もりまでわかります。あんまり効いてないかも。」と言うと、「こんなにつねって痛くないなら大丈夫大丈夫。」と看護師さん達が笑っている。
先生が来る。
これから出産に比する痛みが来るのか〜と、身構えつつ力を抜く。
多分何かが始まっている。 ので何か違うことにフォーカスしてよう。
運転中にたまたまシャッフル再生でかかった柴田聡子「雑感」が脳内ラジオで流れる。
歌詞は分からないのでメロディーだけの歌声が響き渡る。
「きっと、うまくいく」の「All is well!」と暗示をかける出産シーンを思い出す。
歯軋りさせてビートを刻んで遊んでみる。
手術中だと思うが全く深刻ではない通常運転の会話が看護師さんやお医者さんの間で繰り広げられている。
途中様子を聞かれて、「歯軋りさせてビートを刻んで遊んでます。」と答えると「歯軋りはエナメル質が削られるから良くない。」と執刀中の先生に冷静に指摘される。
確かに。じゃあ何しようかな。と半分寝ながら思っている内に手術が終わった。
副医院長から切り取った痔瘻部分を見せられる。ずっと閉じてた瞼を見開き最初に目にしたものは我がお尻の肉片。多分トンネルになってた部分を教えてもらった気がする。朧気ながらも蛍光灯に照らされた肉片を見つめた場面は網膜に焼き付けられmycloudに保存された。
「大丈夫?気持ち悪くない?」と看護師さんに聞かれ、「言われてみればちょっとだけ気持ち悪いかも。」と言うと、先生が即座に「仰向けになれば大丈夫」と言って看護師さん達にゴロンとうつ伏せになった身体をひっくり返される。確かに仰向けになった瞬間治った。お医者さんって凄い。いや、この先生が凄い。
病室に戻り、横になりまた痛み止めなどの点滴を打たれる。
その日はほぼ横になって過ごし、痛み止めを打ってもらったこともあり、結局「激痛」という言葉が当て嵌まる瞬間は一度も来ることなく終わった。
これも全て凄腕のお医者さん、親切な看護師さん達のおかげだろう。ありがとうございます。
皆様もスタンディングデスクまでいかなくてもお尻にやさしい座布団を椅子に敷いたりしてお気をつけなすって。
誰もが避けて通れないいずれ来たる肉体的な衰えによる不可避の死、肉体の消滅についてこのタイミングで、大病を患うことなく、この程度の症状で、感じ、考え、残りの人生に対し気持ちを切り替えることができたのはかなりラッキーかもしれない。ちゃんと生きねば。生き方用意。
しかしこれを書いている時点で、術後以来まだアレを出していない。
看護師さん達にも病院にいる間に出してってねと言われる。もし家に帰ってから悲鳴を上げることになったら大変でしょ。退院までに出なかったら浣腸してあげるねと笑顔。
地獄の季節はここから始まるのかもしれない。
Melete Thanatou
Thanks a lot.